なぜ利益が出ているのに、お金がないのか
第1回では、法人税と消費税について説明しました。 今回は、中小企業の皆様からいただく「利益が出ているのに、お金がない…」という疑問について、できるだけイメージしやすいように解説していきます。
なぜ利益が出ているのに、お金がないのでしょうか。
みなさん不思議に思ったことがあるはずです。
利益が前期と比べて増加したのに、相変わらず資金繰りは厳しく、毎月資金繰りの事を考えていませんでしょうか。
その理由としては、会計上の利益(損失)の計上タイミングと入出金のタイミングが異なることに起因します。タイミングが異なる事がポイントです。
財務諸表の中で、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書は比較的見慣れていると思いますが、キャッシュ・フロー計算書という書類もあります。
キャッシュ・フロー計算書は、主に上場企業の開示書類として要求されている書類です。任意に作成している中小企業の会社もあります。
キャッシュ・フロー計算書は、期間中の現預金の動きを項目別に表す書類であり、損益計算書(PL)との違いを理解する事で、タイミングが異なることを理解できます。
以下で具体的に説明します。
各書類の意義、及び令和3年3月31日を決算日とする会社の例
各書類の意義、及び令和3年3月31日を決算日とする会社を例に挙げると以下になります。
①貸借対照表(BS)
貸借対照表(BS)とは…対象期間の末日時点(×期間)の財政状態を表す書類。
この例だと、令和3年3月31日時点の現預金、売掛金、買掛金等の残高の金額を表す書類になります。
②損益計算書(PL)
損益計算書(PL)とは…対象期間中の経営成績を表す書類。
この例だと、令和2年4月1日〜令和3年3月31日の期間中の売上の金額、費用の金額、利益の金額を表す書類になります。
結果的にPLの最終記載である、当期純利益(又は純損失)はBSにおける純資産の部の増減の一部になります。
③株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書とは…対象期間中のBSにおける純資産の部の動きを表す書類。
この例だと、令和2年4月1日〜令和3年3月31日の期間中の利益又は損失の発生、配当の支払い、その他有価証券評価差額金等の増減を表す書類になります。
④キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書とは…対象期間中の現預金の動きを項目別に表す書類。
この例だと、令和2年4月1日〜令和3年3月31日の期間中の現金の動きを項目別に表す書類になります。具体的には以下の項目ごと(入出金の性質ごと)に現預金の動きを区分します。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー・・売上の入金、仕入の出金等
- 投資活動によるキャッシュ・フロー・・固定資産の購入に伴う出金、定期預金の入出金等
- 財務活動によるキャッシュ・フロー・・借入金の返済に伴う出金、配当金の支払いに伴う入出金等
動きの結果として、BSの現預金の残高の増減(当期と前期の現預金の差額)と一致します。
PLとキャッシュ・フロー計算書で違いが出る例
PLとキャッシュ・フロー計算書で違いが出る例を以下に示します。
ケース1
期末日で売上を100計上した場合。(売掛金100/売上100)
①PL上の売上は100
②現預金の入金はゼロ。(翌期に入金)
キャッシュ・フロー計算書上で、営業活動によるキャッシュ・フローの影響はゼロになります。
つまり差額の100が、PLの動きと現預金の動きとの差異になります。
ケース2
期末日に決算整理仕訳として、未払費用を200計上した場合。(費用200/未払費用200)
①PL上の費用は200
②現預金の出金はゼロ(翌期に出金)
キャッシュ・フロー計算書上で、営業活動によるキャッシュ・フローの影響はゼロになります。
つまり差額の200が、PLの動きと現預金の動きとの差異になります。
ケース3
固定資産の購入が100あり、当期中に支払済の場合。PL上の減価償却費は10。
①PL上の費用は減価償却費の10
②現預金の出金は100
キャッシュ・フロー計算書上で、投資活動によるキャッシュ・フローの影響は100になります。
つまり100−10=差額90が、PLの動きと現預金の動きとの差異になります。
PL上の売上が入金と同タイミング、費用が出金と同タイミングであれば、最初の疑問は生じません。しかし例の通り、PLでは売上もしくは費用が計上されているものの、同じタイミングでの現預金の動きと一致しない事は多々あります。
基本的にケース1、2のように、会計上の売上や費用は、入出金より先行します。入金がある前に、売上計上、出金がある前に費用計上となります。もちろんケース3のように入出金が先行する場合もあります。
以上から、タイミングが異なる事により、PLで利益が出ているからといって、単純に現預金がその分だけ増加する訳ではないという事が理解できたと思います。
項目ごとに詳しく現預金の流れを把握したい場合には、キャッシュ・フロー計算書の作成をお勧めします。より具体的な経営計画の策定や、資金繰り等が可能になると考えます。
本コラムは、一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。皆様が本コラムを利用したことにより被ったいかなる損害についても、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別に専門家にご相談ください。