ERP導入のメリットとは?ERP導入の手順やメリットを紹介
DX推進が求められる中で、近年注目を集めているのがERPです。今回は、ERPを導入することによるメリットや、導入を進める方法、実際の導入事例について解説します。
本記事のまとめ
- ERP導入には、データの一元管理やリアルタイム経営の実現など、企業経営の改革につながる多くのメリットがある
- ERP導入を成功させるには、目的の明確化と適切なパッケージの選定が重要
- 事業規模によらず、ERPの導入によって経営の改革に取り組む企業が増加している
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められているなか、注目を集めているのがERPです。しかし、ERPにはどのようなメリットがあるのか、どのように導入すればよいのか分からず、なかなか導入が進まない企業も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、ERPを導入するメリット・デメリットや、具体的な導入プロセスについて解説していきます。
目次
1. ERPとは何か?基礎知識をおさらい
ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の頭文字を取った用語です。企業の経営資源を一元的に管理し、全体最適を実現する概念、あるいはそれを実行するシステムを指します。ERPシステムは欧米で発祥し、1990年代から日本でも導入が始まりました。一昔前までは、ERPの導入には多額の費用がかかるため、大企業に限られるというイメージがありました。しかし、近年ではインターネット上のクラウド環境で利用できるクラウドERPが普及し、導入にかかるコストや時間が大幅に改善したことから、中小企業においてもERPを導入するケースが増えています。ITRのレポートによると、ERPの市場は、毎年10%増の規模で拡大すると予想されています。
参考サイト:ITR Market View:ERP市場2022
2. ERPを導入するメリット
ERPの導入にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、5点に絞って紹介します。
データの一元管理
ERP導入の最大のメリットは、データの一元管理ができることです。業務間でバラバラのシステムが使われている場合、システム間のデータ連携に手間がかかってしまいます。また、データの転記をマニュアルで行っていると、ミスが発生するリスクも高まります。
データ管理にERPを用いれば、バラバラに管理されていたデータを集約でき、業務効率化につながります。また、システム間の転記を行う際の手間やミスの削減も可能です。さらに、ERP上で整理されたデータは粒度が揃うため、分析のための加工が不要となり、AI活用などにもつなげやすくなります。このように、ERPを導入することで、効果的にデータを管理・活用できるようになるでしょう。
リアルタイムな意思決定
ERPを導入すると、リアルタイムに情報を集められるため、経営のスピードアップにつながります。統合されていないシステムで情報を管理しているケースでは、情報を集めるのに多くの時間をかけなければなりません。例えば、売上の情報を取得するために、部署間やシステム間の連携が必要となり、経営層の意思決定に時間がかかってしまうでしょう。ERPを活用すれば、売上・コスト・在庫などの経営に重要な情報をリアルタイムに収集でき、経営層のスピーディーな意思決定に役立ちます。変化の激しい現代のビジネス環境において、ERPのリアルタイム性は非常に有効です。
業務の全体最適化
ERPは企業の全体最適を図る上でも、高い効果が期待できます。企業活動は部署に閉じて行われているわけではなく、全体で利益を出す必要があります。しかし従来は、業務領域ごとに異なるシステムが使われており、改善を行っても業務領域に閉じてしまうことが問題点でした。ERPを用いて管理すれば、このような問題を解決できます。在庫の入庫が会計伝票につながるなど、業務領域間で情報が連携されて一元的に管理できるため、企業運営の全体最適につながるでしょう。
業界のベストプラクティスの活用
業界のベストプラクティスを活用できることも、ERP導入のメリットです。「ベストプラクティス」とは、ある目的を果たすために最も効率的で効果のあるプロセスを指します。ERPは、多くの企業への導入実績をベースにアップデートが進められていくものです。開発のベースになっている業務プロセスを採用すれば、業界において最も効率的な業務を実現できると考えられます。このことが、ERP導入はベストプラクティスと呼ばれる理由です。もちろん、独自性の強い領域の業務変更を行うかどうかは、しっかりと検討しなければなりません。しかし、会計領域など企業間の競争優位性につながらない領域は、ERPに業務を合わせることで効率化を実現できるでしょう。
内部統制の強化
昨今の企業経営で重視されている、内部統制の強化につなげられることもERPのメリットと言えるでしょう。大企業の粉飾決算が大きなニュースになったことを背景に、企業経営における内部統制が求められています。しかし、管理が不十分なシステムで業務を行っていては、従業員による不正のリスクが高まります。一元的な管理ができるERPを導入すれば、標準化されたプロセスに則って業務を行うため、従業員の不正防止につながるでしょう。また、アクセス権限の管理やログの取得といったERPの保有する機能も、ガバナンス強化の観点で効果的です。
3. ERPを導入するデメリット
ERPを導入する際は、メリットだけではなくデメリットも理解しておかなければなりません。ここからは、ERP導入に関するデメリットを3つ紹介します。
導入にコストと時間がかかる
ERPの導入は、システム・業務のどちらの側面でみても、企業にとって大掛かりな改革となります。そのため、多額のコストと長い時間がかかりやすいことを理解しておかなければなりません。特に、ERPソフト自体にかかる費用だけではなく、自社の業務変更に対する社内調整や従業員への教育にも時間とコストを要する点には注意が必要です。
ERPの選定が難しい
ERPには多数の種類があり、それぞれ特徴が異なります。例えば、クラウド型とオンプレミス型では、価格面やセキュリティ面など観点ごとに強みが異なります。また、パッケージタイプにするか、スクラッチタイプでオーダーメイドするかによって、自社の要件をどこまでシステムでカバーできるかが変わってくるでしょう。自社に適さないERPを導入してしまうと、業務の煩雑化を招くだけで、十分なメリットを得られないおそれがあります。このようなトラブルを避けるためにも、複数のERPソフトを検討し、自社の業務やニーズに合うERPを選定することが重要です。
従業員からの反発が起こる可能性がある
ERPは、企業の全体最適を目指す上で効果的なシステムです。そのため、現場レベルでは業務が増えてしまうおそれがあります。また、慣れ親しんだ業務プロセスからの変更に、ポジティブな印象を抱かないメンバーが現れるケースも少なくありません。このような現場からの反発が、ERP導入の大きな障壁となるでしょう。そのため、自社にとってどのようなメリットがあるのかを従業員にしっかりと伝え、導入後の業務イメージのすり合わせを行うことが重要です。
4. ERP導入のプロセス
ここまでERPを導入するメリットとデメリットについて触れてきました。しかし、具体的にどのように導入すればよいのか分からない方も多いのではないでしょうか。ここからは、ERP導入のプロセスについて掘り下げます。
ERP導入の目的の明確化
ERP導入を実現させるには、「何のために行うのか?」という目的の明確化が欠かせません。なぜなら、目的によって、選定するERPパッケージやプロジェクトの予算・期間が変わってくるからです。例えば、コスト削減が目的であれば、導入や運用にコストがかかるオンプレミス型のERPは不適切といえます。しっかりと時間をかけて、解決すべき課題やERP導入について議論を深めておきましょう。
また、目的に加えて、導入対象とするスコープを明確にしておくことも重要です。目的やスコープが定まったら、それらをドキュメントにまとめておくと、いつでも立ち返ることができて便利です。
ERPパッケージの選定・プロジェクト計画策定
プロジェクトの目的に沿って、ERPパッケージの選定を行います。導入にかかるリードタイム、導入や保守にかかる費用、自社との相性、ユーザーの使い勝手の良さなど、さまざまな観点で比較しましょう。自社に合わないパッケージでは、十分な導入効果を得られず、業務改善にはつながりません。そのため、当初に検討した目的と照らし合わせて、総合的に判断する必要があります。ERP導入時は、コンサルティング会社を利用するケースが多いため、パッケージ選定の協力をコンサルティング会社から得るのもよい方法です。
パッケージ選定に加えて、ERP導入プロジェクト計画の作成も行う必要があります。導入スケジュールやプロジェクトチーム体制、進捗や課題管理方法などを決めておきましょう。
要件定義
パッケージのままERPを導入することは非常に難しく、開発が必要となるケースがほとんどです。そこで、パッケージのままでは対応できない業務を明らかにするために、実現したい業務のあり方とパッケージを比較する「フィットアンドギャップ分析」を行います。ただし、追加開発はコスト増加とバグ発生につながるリスクが高いです。そのため、ギャップがあるから開発を行うという画一的な選択肢をとるのではなく、マニュアルでの対応や、業務の見直しも検討することが推奨されます。ギャップが発生した際の対応方針を、事前に決めておくとよいでしょう。
業務に合わせてシステム開発を行えばよいと考える方は多いかもしれません。しかし現在では、業務をシステム標準に合わせていく「Fit to Standard」の考え方が、ERP導入の主流となっています。コスト削減や導入スケジュール短縮に加え、システムのバージョンアップやグローバル展開を容易にできるメリットもあるためです。
ERP導入
開発完了後にはテストが必要です。単体で動くことを確認する単体テスト、機能同士の連携を確認する結合テスト、全体で仕様を満たすことを確認する総合テストを実施します。問題があれば修正を行い、テストをパスすればERP導入に移ることができます。事前にユーザーへの周知やマニュアル整備、使用方法や情報セキュリティに関するトレーニング開催なども必要です。特に、ユーザーから協力を得られるように、早い段階からプロジェクトに巻き込んでおくとよいでしょう。また、リリース前には、ユーザー情報の登録や既存システムからのデータ移行なども必要となります。
ERPの運用と継続改善
ERP導入の直後は、トラブルやユーザーからの質問が発生しやすいです。そのため、ベンダーやコンサルティング会社にサポートを依頼しておき、不測の事態にもスムーズに対応できる体制を整えておく必要があります。可能であれば、設計の段階から保守運用を念頭におき、トラブルが起こりにくい仕様にしておきましょう。この観点からも、業務をシステムに合わせて追加開発を減らす「Fit to Standard」の考え方が重要といえます。また、あらかじめ基準を設定した上で、導入前と導入後を比較し、当初の目的を達成できたかを確認することも大切です。もし、うまくいかなかった場合は、別の拠点への導入時などに反省点を活かしましょう。
5. ERPの導入事例/ユースケース
ここでは、実際にERPの導入に成功した企業の導入事例/ユースケースを2つ紹介します。導入事例/ユースケースを参考にすることで、ERPの活用シーンをより具体的にイメージできるようになるはずです。
長年使用してきたレガシーシステムのERPへの置き換え
1つ目の例は、エンターテイメント業界の企業におけるレガシーシステム刷新のプロジェクトです。こちらの企業では、長年スクラッチ開発したシステムを使用してきたため、システムの複雑化と属人化が課題となっていました。また、システムを維持するための保守・運用に、多額のコストが必要な状態でした。このような課題を解決するためにERPを導入し、一元化されたマスタにもとづく業務の実現に成功しました。今後は、整ったデータ基盤をもとに、さらなるビジネスにつなげていく想定です。
参考サイト:株式会社タイトー様のERP導入事例|ERP(ERPパッケージ)の【GRANDIT】
バラバラの業務システムの利用による無駄の削減を達成
2つ目の例は、年商50億円規模の食品販売業におけるERP導入です。こちらの企業では、急激な売上増に対応するため、事業が増えるごとに新しいソフトを導入していました。その結果、Excelでの二重管理やレポート作成などの不要な業務が多く発生し、従業員の長時間労働で対応せざるを得ない状況でした。しかし、ERPを導入してシステムを一元化することで、無駄な業務を削減でき、従業員の生産性向上を実現しました。また、人件費をはじめとするコスト削減や、災害時のBCP対策強化にもつながったようです。
参考サイト:食品販売業の導入事例
まとめ
本記事では、ERP導入のメリットと導入手順について紹介しました。以下がこの記事のまとめです。
- ERP導入には、データの一元管理やリアルタイム経営の実現など、企業経営の改革につながる多くのメリットがある
- ERP導入を成功させるには、目的の明確化と適切なパッケージの選定が重要
- 大企業・中小企業を問わず、ERPの導入によって経営の改革に取り組んでいる企業が増えている
ERPの導入には多くのメリットがあります。現状の企業経営に課題を抱えている方は、本記事で紹介した手順や注意点をふまえて、ERPの導入を進めていきましょう。