会計監査人(監査法人)が実施する棚卸立会に関して
上場会社及びその子会社は、3月決算の会社が多いと思います。
3月決算の会社は、棚卸及び会計監査人の棚卸立会が、今月末に予定されていると思います。(前倒しで実施している会社もあります)
今回は会計監査人が棚卸立会時に何を意図して何を実施しているかを、簡単にご紹介したいと思います。
実務の中で、経理の人は会計監査人の意図や実施内容を御理解して頂いている事は多いと感じていました。しかし経理以外の人は、会計監査人とコミュニケーションを取る機会が少なく、なかなか意図が伝わり辛いと感じる事がありました。
会計監査人が実施する立会を理解する事により、棚卸の効果的効率的な運用及びスムーズな監査対応が可能になります。
棚卸立会の目的
- 棚卸立会は、会計監査人が期末時点の棚卸資産の数量を検証する監査手続です
- 会社が実施する棚卸に立会い、棚卸の妥当性を確認する事により、棚卸資産の数量の検証を行います
- 金額(単価)ではなく、あくまで棚卸資産の数量を検証する監査手続です
棚卸立会の実施内容
棚卸立会の実施内容は以下になります。(あくまで抜粋です)
①会計監査人は事前に棚卸計画書(実施要領書)等を入手し、会社の棚卸の作業内容等の確認を行います。例えば以下の内容につき、事前確認します。
- ロケーション
- ロケーションごとの棚卸対象品及びその直近月の数量や金額
- 棚卸関与者の人数。関与者の棚卸の熟練度等
- 入出庫を止める日時
- 滞留品等の区分方法
- 棚札の配布方法及び回収方法
- 数量カウント方法及びWチェックの方法、棚札への記載方法
- カウント済みの棚卸資産を区分する方法
- 棚卸除外品(預り品等の他社資産や、棚卸時の入庫品等)の区分方法
- 社内の内部チェック体制
- 社内の内部チェックで不備が検出された場合、会社の対応方法
- 前回棚卸時の改善項目
- 前回棚卸時に発生した棚卸差異
②棚卸立会時ですが、会計監査人は、事前に確認した計画書等を基に、その通りに棚卸が実施されているかを確認します。例えば以下の内容を実施します。
- 実際に棚卸を実施している現場を回り、計画書等の手順通りに棚卸が実施されているかを確認します。必要に応じて、棚卸実施者に手順等のヒアリングを行い、手順の理解度を確認します
- 現場をくまなく回り、棚卸漏れがないかを確認します
- カウントが正しく行われているかを検証する為に、サンプルでカウントを会計監査人自ら行い、会社が実施したカウント数との一致を確かめます
- 必要に応じて、棚卸のタグコントロール(棚札の回収の妥当性)についても、サンプルベースで、会計監査人が自ら確認を行います
会計監査人が自ら行ったサンプルのカウント数が、会社が実施したカウント数と合わない場合(エラーが生じた場合)は、問題となります。
その場合、数十件のサンプルを追加してカウントを行う事もあります。また追加で数十件のサンプルをカウントした結果、さらにエラーが生じた場合には、棚卸の妥当性を検証できない為、エラーの原因に基づく影響範囲を確認したうえで、再棚卸が必要になる場合もあります。
(例えば、会社のA氏が数量カウント方法を理解しておらず、それが理由によりカウントを複数誤ったと判断した場合、A氏が担当していたエリアに関しては、再棚卸が必要と結論付けることもあります)
最後に
棚卸立会は何十回と経験しました。会社によって棚卸の実施方法は様々です。
100%完璧な棚卸はありません。会計監査上重要な問題がある場合は少ないですが、改善項目は必ずありました。(重要な問題があり、棚卸及び棚卸立会を、日を改めてやり直した事もあります)
1年間に数回という限定的な作業という事、棚卸の担当者が入退社や異動の関係で毎年同じではない事、棚卸の関与者が全社ベースで数百人に及ぶこともあり多数である事等、様々な理由により、100%完璧な棚卸は存在しません。
改善項目を放置していると、将来の会計上の大きなミスに繋がります。
その為、棚卸の管理者は、継続して棚卸の重要性を啓蒙し、棚卸関係の作業内容を各実施者に伝達する(教育)する必要があります。
※コラム記載の内容は、あくまで一般的な例の記載、個人的見解になります。
会社の実態により、異なる場合があります。