不正会計は他人事ではない
上場企業の不正会計が頻発しています。
最近では、上場企業において複数の企業が不正会計を明らかにしています。
中堅企業及び中小企業の皆様も、決して他人事ではありません。
中堅企業及び中小企業の社長と話をすると、上場企業で起こっている問題は自分の会社とは全く関係ないという印象を持っていらっしゃる方が多いと感じます。
必ず皆様の周りには利害関係者(親会社、取引先、仕入先、税務当局、銀行、株主など)が存在します。全ての法人にとっての統一的な指標は会計数値であり、利害関係者は多くの意思決定を会計数値より行います。従って、中堅企業及び中小企業の皆様にとっても、多かれ少なかれ会計を操作するインセンティブは存在します。
今回は、上場廃止見込みを公表したA社の調査報告書を参照します。
①A社のプレスリリース日及び内容は以下になります。
21年11月9日
第2四半期の決算発表延期のお知らせ
不適切な会計処理の疑念の認識及び特別調査委員会の立上の公表
21年11月15日
第2四半期の提出期限延長に係る承認
22年1月27日
特別調査員委員会の調査報告書受領
結果、第2四半期決算の発表を行えず、上場廃止基準に抵触。上場廃止見込みを公表
②具体的な会計不正の内容は以下になります。(プレスリリースより抜粋)
a.売上の前倒し計上
b.架空売上の計上
c.架空原価の計上
b.の影響金額及び売上に占める割合は以下になります。(調査報告書より抜粋)
2016年3月期 | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | |
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売上高(訂正前) | 726 | 1,010 | 1,314 | 1,524 | 1,903 | 1,812 |
うち架空売上 | 1 | 8 | 32 | 305 | 489 | 994 |
架空売上割合 | 0% | 1% | 2% | 20% | 26% | 55% |
経過するにつれて、売上全体に対して、架空売上が占める割合は増加しています。
驚くべき事に、21年3月期では、架空売上が全体売上の55%を占めています。
③架空売上に対応する入金の偽装方法
- 架空売上によって、業績を維持
↓ - 業績維持により、株価を維持
↓ - 役職員は個々保有の株式売却益を、架空売上の入金に充てる
以下、自転車操業として繰り返す。
役職員が私財をもって入金原資としていたのが、当不正のポイントです。
A社は2016年12月に東証マザーズに上場をしています。
上場直前の2016年3月に第1回、第2回新株予約権を発行、また2017年5月には第3回新株予約券を発行しています。この行使により取得した株式の売却により、多額の入金原資を得ることを可能にしました。
また追記として、役職員はA社の10億円以上の広告費についても、資産管理会社を通じて私財投入を行っています。
③会計監査人に対して行った偽装工作は以下になります。
- 取引内容に関しての虚偽説明
- 入金に関しての虚偽説明
- 残高確認状の回答偽装
- 受注内容確認書、受領書の偽装
- 納品物の偽装
- 顧客担当者のメールアドレスの偽造及びなりすまし
私も何回も不正対応を経験していますが、この偽装工作の詳細を読めば読むほど、色々と考えさせられます。
④不正会計の結果として、利害関係者(主に投資家)に対しての影響は以下になります。
21年11月9日プレスリリース前の株価@1,000円
22年1月27日プレスリリース後の株価@21円
単純に計算するとして、時価純資産の98%が不正会計で失われた事になります。
これにより、投資家はもちろんのこと、銀行、取引先等様々な利害関係者が大きな影響を受けることになります。
会計を不正に操作すれば、短期的に限られた人にとってはメリットがあるかもしれませんが、将来的に必ず様々な利害関係者を巻き込み、何倍にもなって、そのしっぺ返しが来ます。
どのような動機・背景・手口で不正が実施され、どのような対策が提言されているのかを知っておくことは、皆様にとっても有用だと思われます。
調査報告書はホームページなどで公開され、赤裸々に報告されていますので、興味をもって見る事ができると思います。
特に原因、再発防止策の提言に関しては、自社と照らし合わせて、少し考えてみて頂ければと思います。