「収益認識に関する会計基準」のポイント・対応状況について
2021年4月以降に開始する事業年度の期首から、「収益認識に関する会計基準」の適用が始まっています。今回のコラムでは、当会計基準のポイント及び各社の対応状況を解説致します。
細かい論点を理解して頂くのが目的ではなく、当会計基準の最低限理解して頂きたいポイント及び、実際に既に四半期財務諸表で開示された注記情報の分析結果を解説致します。
結果、大局的に当会計基準の理解、そして実際に実務に影響する論点は何か?という事に関して、理解を深めて頂く事が目的となります。
1、「収益認識に関する会計基準」のポイント
①基本的な方針
- 収益認識に関する包括的な会計基準
- IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を出発点に、日本の会計慣行にも配慮
②当基準のポイント
- 対象法人は上場会社、会社法監査対象法人及びその連結子会社等
- 適用範囲は顧客との契約から生じる収益
- 5ステップモデルによる収益認識。重要性に関する代替的な取り扱い
これまでは、企業会計原則における「実現主義」の原則に従い、収益認識を行っていました。
「実現主義」は詳細な規程ではなく、同じ経済的事象に対しても、解釈により様々な判断、会計処理が行われていました。結果、企業間の比較可能性を阻害していました。
「収益認識に関する会計基準」は以前と比べて、詳細な規程となっており、解釈により判断が異なる事が少なくなると考えられます。結果、企業間の比較可能性は向上し、財務諸表利用者とって有益な情報となります
2、5ステップモデルの解説
ステップ1
顧客との契約を識別する
↓
ステップ2
契約における履行義務を識別する
↓
ステップ3
取引価格の算定
↓
ステップ4
取引価格を履行義務に配分する
↓
ステップ5
履行義務を充足又は充足するにつれて収益を認識する
ステップの順番通りに検討を行い、収益認識を行う事が必要となります。
ステップごとの細かい論点は割愛します。
ステップごとに検討を行う必要がある事を理解頂ければと思います。
3、「収益認識に関する会計基準」の各社対応状況
3月決算の会社について、収益認識基準を採用した四半期報告書の開示が進んできました。
収益認識会計基準を適用した会社は、四半期報告書において、会計方針の変更注記として、適用したことによる影響額等を記載する必要があります。
四半期報告書に記載されている会計方針の変更注記を分析し、実務において、収益認識基準の中の影響を与えた論点TOP3を解説します。
①抽出条件
日経225対象銘柄(会社)から、JGAAP(日本基準)採用会社かつ、3月決算会社を抽出
↓
日経225対象銘柄の業界比率に基づいて、ランダムに約50社を抽出
↓
2022年3月期第1四半期(2021年6月)の注記情報を抜粋および分析
②実務に影響を与えた論点に関しての解説
No1.代理人取引
最も影響を与えた論点が代理人取引です。
主たる責任、在庫リスク、価格裁量権等を有していない商品を販売した際(仲介業務等を行った場合等)には、売上を総額で計上するのではなく、純額で計上する必要があります。
<例>取引の全額が、代理人取引に該当する場合
・基準適用前
売上 100
売上原価 ▲80
売上総利益 20
・基準適用後
売上 20
売上原価 0
売上総利益 20
No2.履行義務の充足
次に影響を与えた論点が履行義務の充足です。
一時点で履行義務が充足される、つまり一時点で売上が計上されるのか、もしくは一定の期間にわたり履行義務が充足される、つまり一定期間にわたり、売上が計上されるのかを判断する必要があります。
<例>取引の全額が、一定の期間にわたり充足される履行義務の場合
・基準適用前
×1年 売上 100
・基準適用後
×1年 売上 50
×2年 売上 50
No3.変動対価
次に影響を与えた論点が変動対価です。
変動対価は顧客と約束した対価のうち、変動する可能性のある部分であり、値引き、リベート、返金、インセンティブ等の様々な取引が対象となります。
変動対価は当初は確定した金額ではない為、変動対価が含まれる場合は、取引価格(つまり売上金額)に見積もり要素が含まれることになります。
<例>販管費の全額が、リベート等の変動対価に該当する場合
・基準適用前
売上 100
売上原価 ▲50
販管費 ▲30
営業利益 20
・基準適用後
売上 70
売上原価 ▲50
販管費 0
営業利益 20
TOP3の論点全てが、当会計基準の導入により、整理された項目です。従前は各社の解釈により、様々な判断、会計処理が行われていました。
4、最後に
上場企業等にどのような基準が適用され、会計処理にどのような影響があるのかを、最低限理解する事は必要です。
「収益認識に関する会計基準」の導入により、以前と比較して、様々な情報が有価証券報告書等で追加開示されます。有価証券報告書等で、参考となる同業種の上場会社等の詳細な情報が手に入るのはとても貴重です。使い方次第では、比較に基づく、相対的な自社の強み弱み等の分析にも有用です。
有価証券報告書等を積極的に確認、活用する事をお勧め致します。
本コラムは、一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。皆様が本コラムを利用したことにより被ったいかなる損害についても、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別に専門家にご相談ください。