新リース会計基準に関して

最近のニュースに以下の内容が掲載されました。ポイントだけ抜粋します。
- 新リース会計基準の適用が延期
- 影響が大きい業界から異論が噴出
昨年あたりから、新リース会計基準に関する記事を目にする機会が増えたと思います。新リース会計基準は、適用に際して、上場企業を中心に財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があります。その為、注目度が高い論点となっています。
当月から数回にわたり、新リース会計基準に関して解説を行いたいと思います。
今回は現時点における新リース会計基準の検討状況及び大きな視点からのポイントに関して解説を行います。
※当コラムはあくまで2023年5月2日に公表された公開草案をベースに記載します。今後の審議の状況等によって、内容が異なる可能性がある事に御留意ください。
(1)現時点における新リース会計基準の検討状況
企業会計基準委員会(ASBJ)は2023年5月2日に企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」、企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」を公表し、2023年8月4日までコメントを募集しました。
特定取引の除外要望コメント、準備期間に関してのコメント等、様々な利害関係者から数多くのコメントが寄せられました。
2023年9月から公開草案に寄せられたコメントへの対応の審議が開始されましたが、想定より時間を要しています。その為、最終基準化の時期も当初は2024年3月末を見込んでいましたが、2024年4月以降にずれ込む事になりました。この為、早期適用は早くても2025年4月1日以後開始年度になると考えられます。
(2)新リース会計基準のポイント
① 新リース会計基準開発の経緯
国際会計基準審議会(IASB)は、2016年1月に国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」を公表し、米国財務会計基準審議会(FASB)は同年2月にTopic842「リース」を公表しました。
IFRS第16号とTopic842とでは、借手の会計処理に関して、主に費用配分の方法が異なるものの、原資産の引渡しにより、借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースも含む全てのリースに関して、資産及び負債を計上する事としています。
これらの公表により、国際的な会計基準と我が国のリース会計基準とは、違いが生じる事となり、国際的な比較において議論となる可能性がありました。
そこで、我が国における会計基準を、国際的な会計基準と整合的なものとする為に、新リース会計基準の開発が進められ、公開草案が公表されました。
② 新リース会計基準開発にあたっての基本的方針
基準開発にあたっての基本的な方針は以下になります。
- 借手の費用配分の方法に関しては、IFRS第16号との整合性を図る
- IFRS第16号との整合性を図る程度に関しては、IFRS第16号の全ての定めを取り入れるのではなく、主要な定めのみを取り入れ、簡素で利便性を高くする
- IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業が、IFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準とする
- その上で、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める。又は、経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討
- 貸手の会計処理に関しては、IFRS第16号及びTopic842共に抜本的な改正が行われていない為、基本的に企業会計基準第13号(現行のリース会計基準)の定めを維持
上記(2)②の下線部分に着目します。
この部分が、財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があるものとして、各利害関係者からフォーカスされるポイントです。
IFRS第16号においては、全てのリースを借手に対する金融の提供と捉え、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデルが採用されています。
新リース会計基準においては、IFRS第16号と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかに関わらず、全てのリースを金融の提供と捉え、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデルによることとしています。
具体的には以下となります。
現行のリース会計基準 | 新リース会計基準 | |
---|---|---|
オペレーティング・リース | オフバランス 賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理 |
オンバランス (使用権資産・リース負債) |
ファイナンス・リース | オンバランス (リース資産・リース債務) |
また新リース会計基準を適用した際の影響のイメージは以下になります。
オペレーティング・リース取引の部分につき、現行のリース会計基準においては、リース資産及びリース債務は計上されません。一方、新リース会計基準においては、使用権資産及びリース負債が計上されます。
結果、新リース基準を適用する事により、実態には変化が生じていないのに、会計上の総資産が増加する事になります。総資産が増加する事により、財務指標のひとつである総資産利益率(ROA)等が悪化する可能性が高いと考えられています。
コラム記載の内容は、あくまで個人的見解になります。
以上
参考
リースに関する会計基準(案)(企業会計基準公開草案第73号)
リースに関する会計基準の適用指針(案)(企業会計基準適用指針公開草案第73号)

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