ERP市場の成長の理由とは?【中小企業・大企業に分けて解説】
本記事のまとめ
- 2023年度のERP全体の市場は前年度比約12.1%以上の伸びが予想されている
- 資本金約10億円程度の中堅企業向けERP市場の成長率は前年比20.8%増、資本金1億円未満の小規模企業向けERP市場の成長率は前年比17.9%増となっている
- 中小企業向けのERP市場は、法改正への対応やコスト削減、メンテナンスの手間削減への期待から市場が拡大している
大企業・中小企業問わず、ERPの導入を進める企業が増えています。ERPとは、社内の人材やモノ、お金、情報を管理して業務の最適化を目指すシステムです。業務や業界に合わせた複数の種類があり、導入形式は大きくオンプレミス型とクラウド型に分かれます。ERP市場全体も大きく成長しており、とくに中小企業にとっては、法改正への対応やセキュリティの向上、メンテナンスの効率化など多くのメリットがあります。
目次
1. ERPとは
ERPとは、Enterprise Resources Planningの略で、社内の人材、モノ、お金、情報を管理し、業務の最適化を目指すシステムのことです。業界や業種、業務に合わせて数多くのERPが存在します。
特定の業界や業務に縛られず、会社全体で使用する「統合型パッケージ」や、特定の部門の仕事に用いる「業務ソフト型パッケージ」、ある業界に特化した「業界特化型」などがあります。ERPの多くは大企業向けの大規模なものですが、近年では中小企業の業務や業界に特化したパッケージも増えています。
2. ERPの種類
ERPには複数の種類が存在します。大企業向けの統合型パッケージも多くありますが、ここでは中小企業向けのERPについて解説します。
業務ソフト型ERP
業務ソフト型パッケージとは、労務や会計、人事や予算管理などの、一つの業務に特化したERPです。大企業が多く導入している統合型ERPと違い、会社内の一部の業務(人事や会計など)に特化しているため、比較的安価に導入でき、中小企業でも導入しやすいといえます。
コンポーネント型ERP
コンポーネント型パッケージは、会計、生産、総務などの各業務のなかから、必要な業務に関わるシステムを統合して導入できるERPです。業務ソフト型との違いは大きく2つ存在します。
- 必要な複数業務を組み合わせることが可能(例:販売+会計、人事+給与)
- 業務ソフト型よりも、選択可能な業務の範囲が多い
業務ソフト型と同様に、統合型パッケージと比べて安価な導入が可能であり、中小企業に向いているERPです。
業界特化型ERP
特定の業務ではなく、業界に特化した業界特化型のERPも存在しています。統合型パッケージに近い形であり、生産管理や会計管理などの基本機能は標準で搭載されているものが多いです。大企業が導入している統合型パッケージでは対応できない、比較的ニッチな業界(例:サービス業、飲食業など)にも対応している性質を持ち、比較的低価格であることから、中小企業でも導入しやすいでしょう。
3. ERPの導入形式
ERPには、大きく「オンプレミス型」と「クラウド型」の2つの導入形式が存在します。
オンプレミス型
オンプレミス型とは、自社の敷地や建物の中にサーバーやその他の機器を設置して、自社で保守管理を実施する方法です。オンプレミス型では、自社の社員と限られた社外の人員しか情報に触れることができません。ERPでは経営に関わる重要な情報を扱う性質上、オンプレス型を選択する企業も一定数存在します。
クラウド型
クラウド型とは、自社でサーバーを持たずにすべてクラウド上で管理する方法です。以前はセキュリティの問題が指摘されていましたが、大手ERPベンダーの多額の投資によるセキュリティ強化により、近年ではクラウド型を選択する企業も増えてきています。中小企業が多く導入している「業務ソフト型」や「業界特化型」のERPもクラウド型が多いです。
4. ERP導入のメリット
ERPの導入により、「業務工数の削減」「新規開発のコスト削減」「社外からのサポートを受けやすくなる」の3つのメリットを享受できます。とくにクラウド型ERPのメリットについて、以下で詳しく解説していきます。
業務工数の削減
ERPで作業を自動化することにより、今まで人の手で行っていた作業が不要となるため、業務工数の大幅な削減が可能です。
例えば、クラウド型のERPを会計業務に使用すれば、「仕分け」や「領収書管理」の作業の大部分を自動化できます。また、インターネット環境があればどこでも業務を行えるため通勤時間を削減でき、業務の効率化につながるでしょう。
新規開発のコスト削減
クラウド型のERPは、特定の業務や業界をターゲットとしたものが数多く存在します。多くの業界や業務で必要となる基本的な機能が備わっており、すぐに利用が可能です。
自社の業務に合わせて特別に機能を開発する必要がないため、オンプレミス型のERPと比べて人件費や開発費などのコストを削減できます。
社外からのサポートを受けやすくなる
独自に開発したシステムを使用している場合、社内にそのシステムについて熟知している技術者がいなければなりません。そのため、システムのメンテナンスや改修の業務が属人化するおそれがあるほか、技術者が退職すれば社外からのサポートを受けにくくなってしまいます。(システムのブラックボックス化)
一方でクラウド型のERPであれば、多くの場合ベンダーからのサポートが存在するため、システム関連の社外からのサポートを容易に受けることができます。
5. 国内のERP市場全体の伸び
ERPの市場規模を調査する「ITR Market View」によると、ERP市場の2021年度の売上金額は1,467億円となっています。
2020年度の新型コロナウィルス感染拡大の影響により、多くの業界・業種で売り上げが低下しました。それにも関わらず、2023年度のERP全体の市場は前年度比で約12.1%の伸びが予想されています。理由としては、以下の2つが考えられます。
理由1:リモートワークの普及によるペーパーレス化の促進
コロナ禍でリモートワークが増えたことは、ERPが普及した大きな要因です。紙を業務に用いると、物理的に働く場所の制限が出てくるため、リモートワークとの相性が良くありません。
コロナ禍を経て、従来紙を使って業務をしていた業態でも、ERPでペーパーレス化を図る流れが出てきたため、市場の伸びにつながったといえるでしょう。
理由2:法改正によるERP普及
2つの法律の改正も、ERPが普及した理由の一つです。
1つ目が2022年4月施行の電子帳簿保存法改正です。国税法上、電子取引に関わる書類(領収書等)は、すべて電子で保存することが義務化されました。これにより、税金の処理や経費に関わるERPの市場が大きく成長しました。
2つ目がインボイス制度の施行です。インボイス制度により、購入者からの求めに対して、インボイス(領収書)を発行しなければならなくなり、領収書の管理が複雑化しました。そのため、簡単に領収書の管理ができるERPの普及に拍車がかかりました。
参考資料:国税庁「電子帳簿保存法の概要」、「インボイス制度の概要」
当面ERPへの投資の増加傾向は継続すると予想され、2021年〜2026年におけるERPの国内市場の成長率は10.5%と予測されています。
参考資料:ITR「ITR Market View:ERP市場2023」
6. 国内の中小企業向けERP市場全体の伸び
国内におけるERPの需要拡大に伴い、中小企業向けERP市場でも大きな成長が見られます。
デロイトトーマツミック研究所が2023年に実施した調査によると、中規模企業向けERP市場の成長率は前年比20.8%増、小規模企業向けERP市場の成長率は17.9%増となっています。
主な成長の理由としては、電子帳簿保存法とインボイス制度の導入に伴う法改正に加えて、以下が考えられます。
中小企業特有の成長理由:帳簿の電子化に伴う周辺業務の電子化
帳簿の電子化を実施すると、経理部門だけではなく、実際に経費を使う部門の業務も電子化が必要となる場合があります。例えば、営業部門で経費が発生した際に、管理をする帳簿が電子化されていたとします。そうなると、営業部門の業務についてもシステムを導入し、電子で提出する必要性が出てくるでしょう。
このような形で、帳簿管理を行うシステムの周辺業務についてもERPで電子化する流れが加速し、全体的な市場の成長につながっていると考えられます。
参考資料:デロイト トーマツ ミック経済研究所「基幹業務パッケージソフト(ERP)の市場展望【2023年度版】」
中小企業がクラウドERP導入で期待していること
中小企業庁が2022年に行った調査によると、多くの企業が以下のような効果を期待して、実際にERPを含めたクラウドシステムを導入しています。
期待されること1:コストの削減
導入/利用にかかるコストの削減を期待して、クラウド型のERPを選択する企業が多く見られます。オンプレミス型では、自社のサーバーや専門知識を持った人員を確保する必要があり、人件費が高くなる傾向があります。加えて、サーバーの物理的な場所を確保するための賃料が発生するケースも多いです。
一方で、クラウドシステムでは自前のサーバーや専門の知識を持った人員を多く抱える必要がありません。また、何らかの問題が起こった際には、多くの場合ベンダーによるサポートを追加費用なしで受けられます。そのため、オンプレミス型のERPよりも人件費やメンテナンス費用を抑えられるでしょう。
期待されること2:情報セキュリティや安全性の向上
クラウド型ERPのセキュリティの高さに期待して導入を進める中小企業も多いです。オンプレミス型では、自社でサイバー攻撃に対するセキュリティや、物理的なサーバーの安全性(社外への部外者の侵入を防ぐなど)を担保する必要があります。
一方でクラウド型のERPシステムでは、ベンダー側が高いセキュリティを担保しながらサービスを提供している場合が多いため、セキュリティを独自で用意する必要がありません。
期待されること3:メンテナンスの手間の削減
ITシステムのメンテナンスの手間を軽減させるために、クラウド型ERPを導入する中小企業も増えています。オンプレミス型では、自社独自のサーバーを運用するケースが多いため、メンテナンスの難易度が上がります。
クラウド型のERPであれば、バージョンアップデートなどを通じて、ベンダー側が高品質のサービスを提供してくれるため、メンテナンスの手間がかかりません。少ない手間で高いパフォーマンスを発揮してくれると期待されています。
参考資料:中小企業庁「2023年版 中小企業白書 小規模企業白書」
7. ERP導入の際に気を付けるべきポイント
最後に、実際にERPを導入する方法と、気をつけるべきポイントについて解説します。
ERPを導入する業務を決める
まずはERPを導入する箇所を決めていきましょう。中小企業が導入しているERPは「業務特化型」や「業界特化型」が多く、すべての業務をERP上で実施するのは困難です。そのため「どの業務をERP上で実施したいか」を明確にする必要があります。
既存業務への理解
ERPを導入すると、既存の業務に対して大きな変更が生じることになります。
そのため「削減される業務」と「変更される業務」をしっかりと把握するために、まずは現状の業務について業務フローなどを用いて理解を深めることが重要です。
変更される業務の周知
「どの業務がどのように変更されるのか」を整理したら、社内や関係者に周知したうえで、ERPを導入していきます。
変更される業務について事前に共有しておくことで、業務の変更に伴う現場業務の混乱を防げるでしょう。
まとめ
本記事では、ERPの概要やメリット、ERPの市場動向について解説しました。
記事の内容をまとめると、以下の通りです。
- 大企業、中小企業含めた国内全体のERP市場は1,000億円を超えると予想されている。コスト削減や情報セキュリティ強化、メンテナンスの効率化などの期待から市場の成長が予想されている
- ERPには、業務ソフト型や業界特化型、業務特化など数種類のERPが存在し、導入方法は大きくオンプレミス型とクラウド型に分けられる
- ERPを導入する際には、「既存業務への理解」や「変更される業務の周知」など適切なステップを踏む必要がある
ERPの市場は、大企業・中小企業問わず拡大しています。
特に中小企業向けの市場では「コストの削減」や「情報セキュリティの高さや安全性」といったクラウドERP特有のメリットから、今後も大きな成長が見込まれています。
ぜひ本記事を参考にして、適切なステップで自社に合うERP導入を進めてください。