海外への輸出が制限される?安全保障のための輸出管理規制とは
目次
日本では今、武力を用いた紛争は起きていませんが、世界を見るとさまざまな場所で戦争や紛争が起きています。アジア地域ではテロ事件が散発していますし、ミャンマーでは内戦状態が続いています。つい最近では、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、今もなお戦争状態にあります。
そういった国の武装勢力や軍部の手に渡らないよう、世界各国では大量破壊兵器や通常兵器などの開発に用いられるおそれのあるものには一定の規制を設けて、簡単には輸出できないようにしています。
では、輸出管理のためにどのような手続きを踏めばよいのか。そもそもどのようなものが輸出管理の対象となるのか、輸出管理体制の構築の仕方も含めて解説します。
輸出管理規制とは
輸出管理(安全保障貿易管理)とは
先進国をはじめとする工業化が進んだ国には、高度なモノや技術が数多く存在しています。そのような製品や技術が、大量破壊兵器を製造・開発している疑いのある国やテロリストの手に渡れば、日本やその周辺国の安全をおびやかす存在になりかねません。
そこで、先進国を中心として「国際輸出管理レジーム」と呼ばれる国際的な枠組みを作り、軍事転用可能なモノや技術が軍事国家やテロリストの手に渡らないようにする体制を構築しています。日本もそこに参加しており、国際平和や安全の維持および懸念取引等に日本の企業が巻き込まれるリスクを回避すべく、外国為替および外国貿易法に基づき、軍事転用可能なモノや技術の輸出を安全保障の観点から規制しています。このことを輸出管理(安全保障貿易管理)と呼びます。
武器や兵器等に使えるものの多くが軍民両用(デュアル・ユース)
驚くべきことに、兵器や武器等軍事目的に使用されるモノや技術は、民生品(平和利用)にも使われるケースが多くあります。これを軍民両用(デュアル・ユース)といいます。たとえば有名なところでいうと、原子力発電に使われるウランは、軍事利用すると核兵器の材料にもなりえます。私たちが日常的に使っているインターネットも、もともと軍事目的で開発されたものが平和利用されているものです。また、シャンプーの成分トリエタノールアミンも、軍事利用すると化学製剤の原料となります。
このように、私たちの身近にあるものが、懸念国やテロリストの手に渡れば、軍事転用される可能性があります。だからこそ、輸出管理が非常に重要なのです。
どんなものが輸出管理規制の対象となる?
輸出管理規制の対象は「貨物の輸出」と「技術の提供」
輸出管理規制の対象となるのは「貨物の輸出」と「技術の提供」です。製品そのものだけでなく、ノウハウ・知識といった形がないものも、輸出規制の対象となることに注意が必要です。
<貨物の輸出について>
貨物の輸出というと、コンテナ等で輸送する何かしらの製品を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、たとえば個人がキャリーバッグに詰めてハンドキャリーで運んだり、国際郵便(EMS)やクーリエを使って送ったりすることも、輸出となり輸出管理規制の対象となります。また、販売を目的とする製品だけでなく、無償のサンプルや一時的に海外に持ち出す展示品、外国からいったん輸入したが返品するものも対象となるのです。
<技術の提供について>
何かを作ったり生み出したりする技術も、輸出管理の対象となります。ここでいう「技術」とは、テクニックのようなものだけではなく、モノの設計や製造または使用に必要な特定の情報が含まれます。たとえば、設計図面や製造方法書、技術報告書、製品仕様書、プログラム等の技術データや、技術指導や技能訓練、作業知識の提供、コンサルティングサービス等の技術支援がこの「技術」にあたります。また、日本人が外国に指導や支援に行くだけでなく、日本国内で外国人等の非居住者に対して指導や支援をすることも輸出規制の対象となることに注意が必要です。
提供の方法は問いません。冊子や電子媒体等の形にして送付する、メールや電話、ウェブ会議システム、クラウドサービスを通して提供する、海外で技術指導に行く等もすべて輸出規制の対象となります。
リスト規制とキャッチオール規制
モノの輸出については、大きく分けてリスト規制とキャッチオール規制と呼ばれる2つの規制があります。
リスト規制とは、大量破壊兵器や通常兵器等の開発に使用される恐れのあるモノ・技術を法令等でリストアップして、輸出の際に経済産業大臣の許可を必要とする制度です。貨物の種類については「輸出令別表第1」に、技術の種類は「外為令別表」にリストアップされています。また、規制の対象となる貨物および技術の詳細な仕様(スペック)は「貨物等省令」に定められています。
キャッチオール規制とは、食品・木材等をのぞくリスト規制品目以外の全品目について、大量破壊兵器や通常兵器等の開発に使用されるおそれのある場合、もしくは経済産業大臣から許可を申請するよう通知を受けた場合に、輸出の際に経済産業大臣の許可を必要とする制度です。リスト規制がモノに着目した制度であるのに対し、キャッチオール規制はもっぱら用途や需要者(エンドユーザー)に着目した制度になります。
リスト規制とキャッチオール規制の関係性については以下の表のとおりです。
対象となるモノ | 政省令で定める品目(武器、機微な貨物や技術) |
---|---|
対象地域 | 全地域 |
許可要件 | - |
対象となるモノ | リスト規制品以外の全品目(食品、木材等を除く) |
---|---|
対象地域 | グループAを除く全地域(①) |
許可要件 | 1.経産大臣からの通知 2.輸出車の判断 (1)用途要件 (2)需要者要件 |
対象となるモノ | リスト規制品以外の全品目(食品、木材等を除く) | |
---|---|---|
対象地域 | 国連武器禁輸国・地域(②) | 一般国(③) |
許可要件 | 1.経産大臣からの通知 2.輸出車の判断 (1)用途要件 |
1.経産大臣からの通知 |
引用:経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance.pdf
①:各国際輸出管理レジームに参加し、輸出管理を厳格に実施している国
オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ英国、アメリカ合衆国等計26か国
②:国連安保理決議により武器やその関連品の輸出が禁止されている国
アフガニスタン、イラク、レバノン、北朝鮮等計10か国
③:①と②以外の国
インド、中国、韓国、トルコ、パキスタン、ミャンマー、ウクライナ、ロシア等
輸出管理に必要な手続きとは
モノの輸出もしくは技術の提供をする前には、事前に輸出管理として行わなければならない手続きが3つあります。それは「該非判定」「取引審査」「出荷管理」の3つです。この3つの手続きはそれぞれ自社で行うものですが、どのようなことをすればよいのでしょうか。
①リスト規制に該当するかチェックする「該非判定」
まず、輸出するモノもしくは技術を特定し、リスト規制に該当するかをチェックします。これを「該非判定」といいます。その際、たとえばある装置を輸出する場合は、その装置に内蔵されているプログラムや仕様書についても該非判定の対象になることに注意しましょう。
該非判定を行うためには、情報収集が必要です。自社製品であれば設計・製造を担当した技術者等にヒアリングします。他社製品であればカタログや製品説明書、仕様書等を取り寄せましょう。判定結果が出たら該非判定書を作成します。
②用途や需要者等の確認をする「取引審査」
次に、キャッチオール規制の要件となっている用途・需要者等の確認をします。どちらの確認から始めてもOKです。
<用途の確認>
需要者(エンドユーザー)が、自社の輸出しようとするモノや技術を何に用いるつもりなのか、契約書やメール、その他の文書で確認します。用途の記載がないときは、取引相手に確認するようにしましょう。また、用途が相手方の事業内容に合っているか、大量破壊兵器や通常兵器等の開発に用いられるおそれがないかもあわせてチェックします。
<需要者等の確認>
需要者等が、大量破壊兵器や通常兵器等の開発を行っている、もしくは行ったことがあるか、軍の関係機関等かどうかを確認します。需要者のウェブサイトや会社概要、リーフレットのほかに、経済産業省のウェブサイトに掲載されている「外国ユーザーリスト」も使って調査しましょう。輸出するモノもしくは提供する技術が軍事転用されるおそれがあるときは、需要者の取引先情報や資本関係等もあわせて確認します。
社内の輸出管理体制のつくり方
輸出管理を適切に行うには、社内に輸出管理体制を構築しておくことが非常に重要です。中小企業等の中には、企業規模や社員数などによっては十分な体制がとれないところもあるかもしれませんが、輸出管理体制を作ることは不正輸出を避けるためにも必要不可欠です。輸出管理体制を構築するには、以下のように社内に輸出担当部門・該非判定部門・出荷部門・輸出管理部門の4つの部門を設けることがのぞましいでしょう。
輸出担当部門
輸出に必要な手続きを行う部門です。モノの輸出の場合は営業部門が、技術の提供の場合は技術部門が担当するケースが多く見られます。輸出先または提供先に関する情報収集を行い、輸出管理部門とともに用途や需要者等の確認も行うのがこの部門です。
該非判定部門
自社製品や自社の技術がリスト規制にひっかかるものでないかどうかを判定する部門です。他社から取り寄せた製品についても、カタログなどを取り寄せて該非判定をします。専門知識が要求されるため、技術部門が担当するのが一般的です。部門の中でも、製品や技術、法令の知識が特に豊富な方を該非判定の責任者に据えましょう。
出荷部門
貨物の出荷を管理したり、輸出に関する手配を一手に引き受けたりする部門です。間違って規制されたものがそのまま海外に出てしまうことのないよう、きちんと該非判定された製品または技術が、輸出もしくは提供されるかどうかを確認するのもこの部門です。
輸出管理部門
社内の輸出管理を統括する部門です。運用ルールの作成や法改正情報の周知徹底、取引審査や経済産業省への許可申請などの役割を担います。
社内で輸出管理を行う際には、取引相手となる輸入者やエンドユーザーの情報や用途などを契約書などの文書から確認する必要があります。GRANDIT miraimilでは、契約情報や船積情報を一元管理することが可能で、さまざまな情報に素早くリーチでき、該非判定や取引審査の際にも役立ちます。ご興味がありましたら、ぜひ一度お問い合わせください。
【参考文献】
- 経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance.pdf - 一般財団法人安全保障貿易情報センター「輸出管理の基礎」
https://www.cistec.or.jp/export/yukan_kiso/anpo_gaiyou/index.html - 橋本かおる『図解入門ビジネス 輸出管理の基本と実務がよ~くわかる本[第2版]』(2018年、秀和システム)