商社の鉄人第2回 鉄人が語る「商社における情報活用のポイント」とは?

公開:2021.11.9
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連載「商社の鉄人」の2回目。いよいよ情報活用の中核に斬り込みます。日々のビジネスの中で、課題の発見と解決、お客様への付加価値の提供などに不可欠となるのが「情報」です。この情報を有効活用するために、商社はERPをどのように構築し、活用すればいいのでしょうか。
「商社の主要システム体系イメージ」図において、雲(クラウド)で囲まれている部分が商社に必要とされるERP領域です。商社独特のERPのあり方を、それぞれのシステムごとに解説しましょう。

商社に必要なERPとは

商社は営業部門とコーポレート部門に分かれます。
営業部門は文字どおり営業の最前線となっている部門で、例えば資源、素材、化学、産業機械、プラント、食品、繊維などがあります。
これに対し、コーポレート部門はバックオフィスで、人事、経理、総務などの部門があります。コーポレート部門には、営業部門が共通で使用する債権・債務管理システム、資金運用・為替管理(外貨・円貨)L/C管理システム、審査・与信・担保管理システム、貿易保険管理システムがあり、これらシステムから会計システムに必要なデータを抽出し、会計処理をしています。
営業部門内の販売管理システムは、それぞれの業種・業態に特化しており、ERP本体はここまでを含めないのが一般的です。ERPと営業部門とは、契約受渡の共通システムで繋がれています。
コーポレート部門と営業共通部分のみをERPで構築し、営業部門の個別システムをサブシステムとしてERPに接続することで、後からバージョンアップしたりクラウド化したりしやすくなります。
ところが、こうなっていないことの多いのが実情ですね。営業部門の各システムもERPとして構築しており、各営業システムを無理やりカスタマイズしています。このカスタマイズがネックとなり、刷新や更新を妨げているのです。
今回の解説は営業部門の各システムではなく、コーポレート部門に構築されたERPを対象とします。
なお、債権・債務管理システムは商社だからといって一般企業と大きく異なるところがありませんので、ここでは解説を割愛しています。

会計システム…管理会計を中心に

会計システムは企業内の経理処理を電子化するもので、「財務会計」と「管理会計」に分類できます。
財務会計は社外に対して財務状況・経営状況を説明するために使われ、これは制度会計とも呼ばれます。システムの主たる目的は財務諸表の作成にあります。
これに対し管理会計は社内向けのもので、現状の経理状況を把握し、未来への羅針盤となるものです。企業個々によって確認したい項目が異なり、商社にも独自のシステムが必要になります。
財務会計は商社も他の企業と変わるところはありません。そこでここでは、管理会計についてお話しします。

厳格な独立採算制

商社では営業部門ごとの採算を厳格に見える化しています。
とりわけ大手商社の場合は、その部門を部門ごと売却する、あるいは本社から切り離して新会社にするなどのケースがよくあります。また、部門単位で投資を拡大する、逆に撤退を検討するということもあります。このため、独立採算制となっているのです。
一般的には部門単位の総利益で見ています。売上から仕入値や経費を引いて、純利益はいくらかという具合です。営業部門には経理担当や人事担当を置いていないわけですから、コーポレート部門の人件費を一定割合で配分し、経費として営業部門に計上しています。
部門単位から課単位に分類し、さらに細かく分けて契約単位で採算が取れているかどうかの管理も行われています。
また、商社では部門や契約単位で「社内金利」や「社内法人税」を課しているケースもあります。

社内金利制度

営業部門の使用資本に対して、社内で一定の利子を負担させるのが「社内金利制度」です。
例えば80万円で仕入れたものを100万円で販売すると、20万の利益が出ます。しかし、支払いの80万円が1カ月後、売りの100万円が6カ月後だとします。この時間差のままでは正確なキャッシュフローが見えないため、売りで年利5%、買いで年利2%を会社側が営業部門に課するわけです。
100万円の年利5%だと半年で2万5000円、これに対し買いの場合は1カ月支払いが猶予されるので80万円の2%、これを12カ月で割って1333円が猶予されます。
商社では社内金利あるいは使用資金金利と呼ばれ、売り買いそれぞれに独自の金利を設定しています。

社内法人税制度

企業には法人税や事業税が課せられており、これを擬似的に営業部門にかけているのが「社内法人税制度」です。
例えばある部門が売上1億円、仕入れが9000万円、これに家賃や人件費などを引いて利益が200万円であったとします。法人税のレートは複雑ですが、ここでは23%とします。
200万円に法人税の23%をかけると46万円、これを200万円から差し引くと154万円が利益になる計算です。
さらに、交際費を処理して利益から落とす場合もあります。交際費には経費となるものとならないものがあります。
売上総利益からいろんな経費を引いて税引き後利益を求めるのですが、それからさらに法人税や交際費など、法人税等の課税対象となる利益に影響を与える費目についても別途処理するというようなことがなされています。

契約単位の採算見える化

以上を、部門単位のみならず、契約単位で行うこともあります。ある商材を何年間かにわたって継続して売買する契約があった場合、契約単位で社内金利も含めて損益を管理します。そして、毎年のようにこのまま継続していいものかどうか検討するわけです。
売上が大きいからといって、売掛が長期になり、社内金利や社内法人税まで引くとほとんど利益がなかったりほとんど赤字だったりすることもあります。必ずしも何十億円ものお金が動くビジネスが儲かっているとは限らないのです。
ここまでしないと異なる商材や分野のビジネスを同じ物差しで評価することができません。売上高で成績を見るのではなく最終的な利益で評価しています。

大手商社とその子会社は、ほとんどがこのような処理をしています。独立採算制にして、その部署が独立した場合、本当にやっていけるのか判断できるようにしているのです。これが商社のちょっと面白いところかなと思います。
反面、業種業界に特化した専門商社がここまで厳密にやっているというのはあまり聞いたことがありません。

資金運用・為替管理(外貨・円貨)L/C管理システム…外貨の入出金、為替予約によるヘッジ

商社は海外とのビジネスがあり、外貨での取引が発生します。会計処理において入出金や借入貸付は一般企業と同じですが、外貨を扱ったり銀行に為替予約を行ったりするところが商社の特色となります。

為替予約によるヘッジ

事前に為替レートと外貨額を予約する「為替予約」を行うことで、レート変動による為替リスクをヘッジしています。
例えば1ドル100円の時に契約して100ドルで1万円支払えばいいと思っていたのに、レートが変わって支払時には1万1000円という事態が発生します。受け渡しの時は利益率30%のつもりが、支払いが終わってみると10%に下がっていたということも起こります。
契約の段階で外貨の金額が決まり、支払・入金の時期も決まります。支払・入金の時期が決まってから銀行に為替予約をするのが一般的です。
日本企業も外貨預金口座を持つことができますが、外貨資金を持つことは為替レート変動によるリスクを抱えることになります。このため、膨大な量の外貨資金を保有することは少なくなりました。
銀行に為替予約を行うと、それだけで手数料が発生します。このことから、輸出も輸入もやっている商社は、外貨での入金と支払いの差額だけを為替予約して、銀行への手数料を削減するようにしています。

社内での為替予約制度

総合商社では、例えば食料品ですと輸入が多くなり、精密機械ですと輸出が多くなります。部門単位で採算を取ることが前提であり、複数の部門間では基本的に協力し合うことをしません。
そこで、部門の間に財務部門が入って、社内で銀行のような役割を果たします。
輸入の多い部門は外貨で支払わなければならないことから外貨を欲します。輸出の多い部門は外貨で入金があることから、円換算の必要があります。これらの要求を財務部門が銀行の役割をして為替予約を受け付けるのです。
これによって買い予約と売り予約の差額だけを銀行に予約することになり、企業としては最低限の手数料で済むようになります。
営業部門は銀行に手数料を払う代わり、社内予約の手数料を財務部門に支払うことになります。大手では、「社内予約レート」という言葉が社内で飛び交ったりします。これら処理をシステム処理するところに商社としての特色があります。

為替マリーとネッティング

「為替マリー」という処理もあります。買い予約と売り予約を結婚させるという意味から為替マリーと名付けているようです。相殺みたいなイメージと考えていいでしょう。
「ネッティング」という処理もあります。総合商社になると例えばアメリカに現地法人を設立し、現地法人を経由で輸出したり輸入したりするわけです。
アメリカのお客様に対して売掛と買掛の両方を銀行経由で個々に処理をするのではなく、現地法人が間に立って差額だけを日本本社が支払ったり受け取ったりします。これも銀行に支払う手数料削減が目的です。
このような処理を毎月行うのは手数料がかさむことから、数か月に1回、例えば四半期処理の際にまとめて行うこともあります。

審査・与信・担保管理システム

商社が売りと買いを同時に行い、支払いは1カ月後にもかかわらず入金が6カ月先ということがよくあります。これが商社の役目と思われているところさえあります。
しかし、これは商社にとっては大きなリスクになり、回収の期限と金額の上限の設定が必要になります。これを「与信管理」または「リスク管理」と呼びます。
1億円6カ月後の入金などというのはリスクがあることから、相手の企業に対してどれくらいの売掛金を計上していいかを、与信部門が評価して営業部門に許可を出すわけです。

信用調査会社から評価を購入

信用度は信用調査会社が評価しており、例えばA社は成績が良いからAランクとしたり、B社は業績が悪化しているのでDランクにしたりして、それにしたがって与信部門が売掛金の上限を設定します。
この信用調査会社、日本国内であれば「東京商工リサーチ(TSR)」、または「帝国データバンク(TDB)」などが有名です。これらは主に日本国内の企業を対象としていますが、各国それぞれの同じような信用調査会社があって、共通の企業コードで紐付けられています。例えば、TSRは「DUNS(ダンアンドブラッドストリートD&Bが発行する企業コード)」で紐付けられており、TDBは「BvD IDナンバー(ビューロー・ヴァン・ダイクBvDが発行する企業コード)」で紐付けられています。ダンズナンバーとかビューローナンバーという言葉を聞いたことがあるかも知れません。

自社評価をプラス

TSRやTDBからデータを購入して、独自の指数をプラスして評価データを販売しているサービス会社もあります。また、社内で独自評価をプラスして、データベースを構築している商社もあります。TSRもTDBも過去のデータのみが判定基準になっており、先進性などこれからの成長への期待値が込められていないからです。
複数の評価をペアにして見比べることができるようにしているところもあります。TSRの評価はBだが、自社分析の成長評価はAだという具合です。この場合、それぞれの企業コードをマッチングして同じ会社であるということがわかるような処理が必要になります。

在庫へのリスクヘッジ

商社は自社で生産に従事していませんが、売り買いのタイミングが合わないと、一時的に在庫管理が必要になります。在庫を持たなければなりませんが、商社はメーカーではありませんから、自前の倉庫持っていることはほとんどありません。そこで、倉庫を借りて一時的に商品を預けることになります。
倉庫に商品を預けること自体がリスクであることから、倉庫会社ごとに預ける限度額を決める「寄託在庫与信」を設定します。大手の物流会社であれば、保険にも入っているでしょうから安心ですが、小さな倉庫会社になると限度額以上の商品を預けてはいけない決まりになります。
寄託在庫与信は、量よりも金額で評価します。食品料であれば低単価ですが、精密機械になると高価なものになり、評価も厳しくしなければなりません。
これは総合商社だけではなく専門商社にも必要となります。

部門単位の限度額と貸し借り

総合商社の場合に多いことですが、同じ取引先に食料も精密機械も化学品も売っているケースがあります。TSRやTDBは会社単位で評価が出てきますが、限度額の総計を分割し、部門単位でその会社への限度額を設定するのが一般的です。
例えばA社に対して、トータルでは1億円なのですが、化学品部門では3000万円、機械では6000万円、食料品では1000万円という具合です。1億円を各部署に割り振っているわけです。 しかし、食品部門がA社と例年にない大規模なキャンペーンを展開することになり、1000万円を越えて2000万円の売掛が必要になることがあります。通常であれば認められないのですが、一時的に機械部門で余っている1000万円を借りて、計2000万円の設定とすることもあります。部門間で貸し借りをするわけです。会社としては合計で1億円を越えなければいいので、部門間での貸し借りは目をつぶるわけですね。

リスクを抑えたい与信部門と、ビジネスを拡大したい営業部門とのせめぎ合いが、商社内ではよく見られます。

貿易保険管理システム …海上保険・貿易ドキュメント

輸入や輸出で海外との取引をするには、船などの輸送手段の手配と荷物への保険が必要になります。また、出国時と入国時の通関書類に加えて保険証券(貿易ドキュメント)も提示しなければなりません。
貿易ドキュメントの作成処理は自動化が困難なため、別パッケージとしているケースがほとんどです。書類群を作成する専用パッケージがあり、ERPの契約・受渡システムと連携させて活用します。

大量破壊兵器への転用防止

荷物の輸出と輸入の際、通関処理の際に保険証書を提示しなければなりません。一般の旅行者が税関を通って、お土産品に高いものはないか、国内への持ち込み禁止品はないかなどを調べられるのと同じです。荷物の内容とその価値について調べ、税金をかけるわけです。
商社の場合、機械類だとどこの国に輸出するのか、何の目的で使用するのか、またその国にエンドユーザーはいるのかなどを確実に管理し、毎月経済産業省への届出が義務づけられています。
輸出品が精密機械でそれがミサイルの遠隔操作に使えたりすると、大量破壊兵器への転用を恐れて、非情にナーバスになります。
また、ホワイト国あるいはブラック国というのがあり、輸出規制の厳しい国もあります。
輸入の時はどこから来たものなのか、原産国はどこなのかチェックされます。ブラック国の外貨獲得を恐れているのです。
輸出の場合、製品の目的の要件、国の要件、エンドユーザーの要件、このようなことをドキュメント上への明記が必要になります。このようなドキュメントの管理システムを別途整備する必要があります。

今回はここまで。コーポレート部門に構築されているERPに関して説明しました。
次回は各営業部門とコーポレート部門の間で、どのようにデータをやり取りしているかを紹介します。経験した興味深いエピソードもお話ししましょう。
それでは次回、またお目にかかりましょう。

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